患者由来iPS細胞を用いた神経線維腫症2型における両側聴神経腫瘍発生機序の解明

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研究担当者

大石 直樹・藤岡 正人・松崎 佐栄子

研究目的

神経線維腫症2型(Neurofibromatosis type2,以下NF2)は、22番染色体長腕に存在するNF2腫瘍制御遺伝子(NF-2 tumor suppressor gene)の欠失や変異によって生じる常染色体優性遺伝疾患である。平均して18歳から24歳の若年者に発症し,およそ3.3万人に1人の発症頻度と推定されている。全身に神経鞘腫が多発し,中でも両側聴神経腫瘍が発現することが特徴であるが,なぜ両側聴神経腫瘍が発現するのかは未解明で,動物モデルも確立していないため,NF2患者由来疾患特異的hiPS細胞を用いることで検討する必要がある。

本研究では当科で確立しているヒトES/iPS細胞からの内耳細胞誘導法を,3家系からのNF2変異ヒトiPS細胞に適用し,細胞レベルでの異常,両側聴神経腫瘍の病態生理および治療標的を患者内耳細胞で直接的に検討する。

1. 学術的背景

NF2においてはほとんどの症例で30歳までに両側聴神経腫瘍(vestibular schwannoma 以下VS)が見られるようになるのが最大の特徴である。両側聴神経腫瘍は両側感音難聴を引き起こし,Quality of life(QOL)を著しく損なう。 NF2の両側聴神経腫瘍に対する治療は手術治療が中心であり,ほかには放射線治療があるが,現状では手術・放射線いずれの治療法においても腫瘍制御率および聴力温存率は満足できるものではなく,薬物療法に対する期待が高まっている。創薬に当たっては疾患メカニズムの解明が必須であるが,2012年のChildren's Tumor Foundationにおいて行われた神経線維腫症1型,2型に関する大規模な検討の報告書によれば,現在海外では全身に神経線維腫が多発するマウスモデルは作成されているものの内耳道内に神経線維腫を発症する動物モデルはいまだ作成されておらず,NF2においてなぜ高率に両側内耳道腫瘍が発生するのか解明されていないことが大きな課題となっている。 NF2患者由来の疾患特異的hiPS細胞を用いることは,従来の手法では決して明らかにすることができなかった病態を新たに解明することにつながる可能性があり,極めて斬新かつチャレンジ性が高いものと考えている。

本邦では平成10年5月よりNF2が公費対象疾患に指定され,平成10年,11年度分の臨床調査個人票の解析結果が報告されている。その報告によればNF2患者が受診する診療科は,脳神経外科86.4%に対し耳鼻咽喉科はわずか3.9%とされている。NF2のほとんどの症例において30歳までに両側聴神経腫瘍が発症するにも関わらず,NF2患者の聴覚障害に対し耳鼻咽喉科医の関与が十分ではないことが指摘されている。聴力経過については,海外においては2014年に6カ国10施設から集められたNF2患者120症例200耳において3年で16%の症例に有意な聴力低下がみられることなどが報告されたが,本邦では臨床統計の報告は少なく,かつ各報告に含まれる症例数が欧米諸国からの報告と比較するとはるかに少ない状況であった。

2. 期間内に明らかにすること

なぜNF2において両側内耳道内に神経線維腫が発生するのか。

仮説1
内耳細胞由来シュワン細胞と神経堤細胞由来シュワン細胞ではシュワン細胞の性質が異なる。
検証1
hiPS細胞を樹立したのち,内耳型(内耳細胞経由)シュワン細胞および中枢型(神経堤細胞経由)シュワン細胞を作製し,in vitroで腫瘍形成能,細胞増殖能を検討する。
仮説2
上記の実験で内耳神経由来シュワン細胞と脳神経由来シュワン細胞で差が見られなかった場合,内耳道内という「場」が腫瘍化を促す性質を持っているものと予測される。
検証2
· これを確かめるために,患者由来iPS細胞から作成したシュワン細胞をマウスの内耳道,脳,脊髄に投与し,部位により腫瘍化の差が見られるかを検討する。
· NF2患者由来シュワン細胞の腫瘍化を抑制する薬剤を検討する(薬剤スクリーニング)
· BevacizumabやLapatinivなど海外で第Ⅱ相試験が行われている薬剤をはじめとし,複数の薬剤をin vitroで投与し,細胞増殖を指標としシュワン細胞の腫瘍化を抑制する薬剤を検討する。

学外共同研究者

  • 松永 達雄(東京医療センター)
  • 岡野 栄之(慶應義塾大学医学部生理学教室)
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