Hippo経路が及ぼす内耳有毛細胞の聴覚機能および微細構造への影響の解析

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研究担当者

西山 崇経・大石 直樹・藤岡 正人

研究内容

難聴は高有病率三大疾患の一つであり、その中でも内耳性難聴と呼ばれる有毛細胞の障害による難聴の頻度は多く、加齢と共に進行していく老人性難聴、アミノグリコシド系抗生物質や白金性抗癌剤による薬剤性難聴、若年者でも急性一側性に発症し一定の確率で難聴の後遺症を残す突発性難聴などが代表的疾患である。外有毛細胞による蝸牛増幅を獲得した哺乳類において,有毛細胞配列や構造維持は機能-構造相関の観点から重要であり,事実コルチ器による過度の細胞増殖は細胞死シグナルを導くことが知られている。

細胞数の安定性に関して、細胞周期をコントロールし細胞数や細胞密度を規定している経路のキナーゼの一つであるcyclin-dependent kinase inhibitors (CKIs) のp19Ink4d (Ink4d)、p21cip1、p27kip1の欠損によりマウス内耳有毛細胞が進行性かつ非症候群性に障害されていくことが明らかになっている。Ink4dは細胞における有糸分裂後の静止期の維持に重要なタンパクであり、Ink4dノックアウトマウスにおいては、有毛細胞の静止期が維持されず異常な細胞分裂を起こし細胞死につながることが判っている(図1)。

図1  Ink4d欠損による有毛細胞の進行性障害  それぞれ図右のカッコは外有毛細胞を表し矢印は内有毛細胞を表す。a-c:野生型マウス有毛細胞は経時的変化を認めない。d-f:Ink4d欠損マウスは経時的に内外有毛細胞障害を呈す (矢頭)。Nature Cell Biology 2003 (5)より転載。

この様に細胞周期を規定するキナーゼの欠損によって内耳有毛細胞の形態維持ができずに進行性障害を起こすことが明らかになったが、細胞周期を規定する他の同様な経路による内耳への影響は明らかになっていない。その中で我々は、近年CKIsと同様に静止期から分裂周期に進入し、組織の大きさや細胞死、細胞の個性を決定する上で重要なHippo経路と呼ばれる経路に注目した。

Hippo経路は、細胞内のYAP/TAZを調節することで、CKIsと同様に細胞周期を調節している経路である(図2)。Hippo経路における中心的役割を担うキナーゼの中に、YAP/TAZを調節する上流因子としてLats1/2キナーゼが存在している(J. Biological Chemistry、2013 (47))。Hippo経路の内耳への影響を検討する予備実験として、当科でマウス内耳におけるLats1とLats2の発現を確認したところ、Lats2は有毛細胞では発現が認められなかったが、Lats1は有毛細胞を含むコルチ器に発現を認める結果が得られた (図3)。

図2  Hippo経路におけるLats1キナーゼが細胞周期に働く機序の模式図 Seminars in Cell & Developmental biology 2012 (23)より転載。

図3 コルチ器におけるLats1/2の発現  左: Lats1は有毛細胞で発現を認めた。右: Lats2はコルチ器に発現がなかった。

このことから、Lats1キナーゼがコルチ器の発生や形態維持に関して重要な役割を果たしている可能性が示唆された。現在までに、Hippo経路に対する研究は抗腫瘍作用に関するものは多数報告されており注目を浴びているが、内耳への影響に関する報告は存在しない。そこで、慶大先端医科学研究所國仲慎治博士の協力を得て、Lats1キナーゼノックアウトマウスを用いて、Hippo経路の一酵素であるLats1が内耳コルチ器に与える機能的・微細構造的影響の解析を行い、コルチ器の発生や形態維持などの安定性に果たす役割を明らかにしたい。

学外共同研究者

  • 國仲 慎治(慶應大学医学部 先端医科学研究所)

サポートを受けている研究費

若手研究B (H28〜)

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